結論
最初に結論です。
ラボ型開発の契約形態、ラボ型開発が向くプロジェクトなど、ポイントをまとめましたので、確認してください。
- パートナー企業内に一定期間、自社の専属開発チームを確保する開発方法(契約形態)
・契約期間中は、チームを自由に活用可能
・準委任契約が一般的 - 長期的に開発及び保守を行うプロジェクト、優先順位など変更が多いプロジェクトに向く
・長期的に同じメンバで活動するためノウハウを蓄積出来、品質・生産性などが向上
・専属チームなのでタスクの優先順位などを柔軟に変更可能 - 開発チームのパフォーマンスアップには、ノウハウの蓄積やチームビルディングが必要
・チームのパフォーマンスアップがラボ開発成功の鍵 - オフショア利用時はオフショア自体のメリット、デメリットの考慮・対策も必要
・メリット:人件費が安い、人材が確保しやすい
・デメリット:コミュニケーションリスクへの対応は必須(言語、距離・時差など)
システム開発を発注する際の契約形態
大枠を押さえたので、詳細に入りたいところですが、その前に前提となる「パートナーと締結する契約」について再確認しておきましょう。
システム開発をパートナーに発注する際の契約形態は主に以下の3つになります。
- 請負契約
- 準委任契約
- 派遣契約
PMBOKガイドなどには、この3形態と異なる名称の契約も掲載されていますが、基本的に上記の3種類が判っていれば問題ありません。
PMBOKガイドなどに記載されている契約形態については、機会があれば解説したいと思います。
では、各契約形態のポイントを見て行きましょう!
1.請負契約
業務を完成させることを約束し、完成した結果に対して報酬が支払われる契約です。
受注側は業務を完成させる義務があり、未完成及び契約で約束した発注側の要求レベルを満たしていない場合、報酬の請求は出来ません。
それではポイントを見てみましょう。
(1)契約(業務)内容
・一定の業務を完成することを約した契約
例:設計書の作成完了、プログラムのコーディング完了
・業務の完成が目的のため、必ずしも成果物を伴う必要はないが、一般に成果物を伴う場合が多い。
(2)代金の支払い
・後払いが原則:完成した業務の結果に対する⽀払いであるため。(⺠法第633条)
(3)瑕疵担保責任
・あり:契約に取り決めがない場合、1年間の無過失責任を負う。(⺠法第634条)
※簡単に言うと瑕疵担保期間は無償対応する責任があると言うことです。
(4)作業者の管理
・受託者が実施:作業者への指揮命令は受託者が行う。
2.準委任契約
委任契約に準ずる契約という意味で準委任契約と言われています。
では、委任契約はどんなものなのかと言うと「法律に関係する業務の遂行を相手に委託する契約」です。
ポイントは委託するのが「業務の遂行(業務を行うこと)」であり「完成」ではない点です。
従って、完成責任はありません。
そして、準委任契約は「法律以外の業務の遂行を相手に委託する契約」です。
委託する業務が法律でない点以外は委任契約と同様と考えてください。
以上を踏まえ、ポイントを見て行きましょう。
(1)契約(業務)内容
・一定の業務を善良な管理者の注意をもって処理することを約した契約。
例:コンサルティング
・必ずしも業務を完成させる必要はなく、成果物を伴う必要もない。
(2)代金の支払い
・後払いが原則:処理した業務(役務)に対する支払いであるため。(⺠法第648条)
(3)瑕疵担保責任
・なし:但し、善管注意義務あり(後述)。
(4)作業者の管理
・受託者が実施:作業者への指揮命令は受託者が行う。
善管注意義務とは
- プロフェッショナルとして一般的に期待されるレベルの注意義務。
- 業務を委任された人の職業や専門家としての能⼒・社会的な地位などから考えて通常期待される注意義務のこと。
- 注意義務を怠り、履⾏遅滞・不完全履⾏・履⾏不能などに⾄る場合は⺠法上過失があると⾒なされ、状況に応じて損害賠償や契約解除が可能。
- システム開発の場合、プロジェクトマネジメントやソフトウェアエンジニアリングなどの知識や実行・管理が求められる傾向にある。
3.派遣契約
先に見て来た2つが業務の完成や遂行を委託する契約だったのに対し、労働者の派遣を行うことについての契約です。
目的は人材の確保であり、労働者は派遣先企業で、指示された業務を行います。
今回は主に準委任契約と比較する意味でポイントを確認してみましょう。
(1)契約(業務)内容
・派遣元企業が、派遣先企業に対し労働者を派遣することを約した契約。
・必ずしも業務を完成させる必要はなく、成果物を伴う必要もない。
(2)代金の支払い
・後払いが原則:処理した業務(役務)に対する支払いであるため。
(3)瑕疵担保責任
・なし
(4)作業者の業務遂⾏上の管理
・派遣先企業が実施:作業者への指揮命令は派遣先企業が行う。
ラボ型開発(契約)とは
ここまで一般的な3つの契約形態について解説してきました。
これを踏まえて、ラボ型開発について再確認して行きましょう。
ラボ型開発のポイントは以下の通りです。
- 契約形態は準委任契約
ラボ型開発の契約は基本的に「準委任契約」です。
準委任契約は業務の遂行を依頼するものでした。
毎月一定の工数を確保し、その工数の範囲で仕事を依頼し、もし仕事量が開発チームのキャパシティーを越える場合は別費用で要員を追加して対応します。 - パートナー企業内に自社専門の開発チームを設けて開発を行う開発方法。
専属の開発チームを抱えるため、その工数の範囲で自由に仕事を依頼することが出来ます。
反面、仕事量が少なく、開発チームに仕事が行きわたらない場合でも、確保した開発メンバ分の支払いが必要になります。 - 中長期で安定的及び継続的に委託量を確保できるプロジェクトや組織に適した開発方法。
一定の工数(開発チーム)を確保するため、仕事量を確保できるプロジェクトや組織に向いています。具体的には、小改善などが多い保守開発案件や、常にバージョンアップしているパッケージやアプリの開発などです。 - 最低でも半年といった中長期間の契約をすることでメリットが加速する開発方法。
中長期に渡り、専属の開発チーム(同じメンバ)で仕事をするため、ノウハウや知識を蓄積しやすく、それにより生産性や品質の向上が期待出来ます。 - プロジェクトの生産性及び品質を向上するため、ノウハウや経験の蓄積、チームビルディングなど開発チームと一体となった改善活動が必要。
4の裏返しですが、開発チームのレベルアップがラボ型開発成功の鍵です。
開発チームに任せきりにするのではなく、委託する側も改善活動に積極的に取り組むことで成果を最大化しましょう。 - コストメリットの観点でオフショアパートナーを活用する場合が多い。
但し、メリットを享受するためには、オフショアリスクへの対応が必須です。
ここまでで、ラボ型開発について理解いただけたと思います。
最後に、ラボ型開発のメリット・デメリットの両面から見てみましょう。
ラボ型開発のメリット
- 柔軟に開発を依頼することが出来る。
- 業務知識や開発標準などのノウハウを蓄積出来る。
- ノウハウ蓄積によりチームのパフォーマンスアップが期待出来る。
- 自社雇用に比べリスクが低い(変動費であり、自社採用の手間がない)。
- オフショアパートナーに委託する場合
- 人件費が安い。
- 人材を確保しやすい。
ラボ型開発のデメリット
- 仕事の有無に係らず、契約で約した工数分の支払いが発生する。
- 開始当初から最高の生産性や品質は期待できない。
- チームのレベルアップにはノウハウ・経験の蓄積やチームビルディングなど、改善活動が必須。
- オフショアパートナーに委託する場合
- 離職率が高い。
- 人材が育たない。
- 仕様やノウハウが蓄積しづらい。
- チームがレベルアップしない。
- コミュニケーションが取りずらい。
- 言語
- 距離・時差
- 離職率が高い。
※離職については、なかなかコントロール出来ませんが、パートナー企業を選ぶ際に「福利厚生」や「インセンティブ制度の有無」など離職率低下のために施策を打っているかなども確認しましょう。
また、自社の社員と同様に扱いコミュニケーションを密にするなど、日ごろからの接し方でモチベーションを維持するなども有効です。
※コミュニケーションは言語は勿論ですが、日本国内で委託する際に「当たり前」と思っていたことも、最初は全て確認しないと上手く行きません。
日本語対応は全体的に見て、ベトナムは中国と比べて数段レベルが低いです。
BrSEやコミュニケーターは、必ず事前に個人の能力を確認するようにしましょう。
まとめ
如何でしたでしょうか。
ここまで読んでいただいた方は「ラボ型開発がどんなものなのか」を理解いただけたと思います。
勿論、デメリットもありますが、それらも含めて理解したうえで取り組めば、きっと成果を上げられると思います。
ベトナムのIT業界はまだ歴史が浅く未成熟な面も否めませんが、エンジニアは優秀な人材が多いです。
是非、ベトナムでのラボ型開発を検討ください。
コメント